2018年5月11日

愛すべき老人たち、 ラブリー・オールドメン


天野忠という詩人を知らなかった。つい先日、山田稔の『八十二歳のガールフレンド』という本を、タイトルに惹かれて読んだのだが、その中にこの詩人のことが書かれていた。『八十二歳のガールフレンド』は、著者自身が書いているように、小説でもあり評論でもあり、またエッセイでもあるような「散文集」で、個人的にはわたし好みの、やわらかでぬくもりのある短編小説のテイストがあって、こんどは同じ著者の「エッセイ集」を読んでみようと、『あ・ぷろぽ それはさておき』という本を借りてきた。そこにもやはり天野忠に関する一篇があり、その中で紹介されていた数編の詩に興味を引かれて彼の詩集を借りてきた。

『あ・ぷろぽ』(=英語で言う 「バイ・ザ・ウェイ」)は、1930年生まれの山田稔が、京大定年退官後(2000年代初頭)に書かれた文章ばかりで、いってみれば「おじいさんのエッセイ」なのだが、説教臭くなく、辛気臭くないところがいい。
男女を問わず、老年作家の説教臭く悟りクサイ文章はどうにも苦手だ。

天野忠は明治42年生まれで、「天野さんほど年齢や老いにこだわり続けている詩人も珍しい」(吉野弘)など、詩集の解説を書いている諸詩人が口をそろえて言うように、「老年」にこだわった詩人らしい。たしかに老人が主人公の作品がおおい。

しかしそれらの作品の多くは、どこかユーモラスで、こういう作品たちをわたしは愛する。





「夜中」

夜中に何べんも目がさめて困る。
一人の老人がこぼす。
それは便利なことだよ。
もうひとりの老人が言う。
だって
自分が
死んでいるかどうか
たしかめるのに
好都合じゃないか・・・
それから二人とも
しわがれた声で
小さく笑う。


こんな詩もある


「パンセ」

パンセ・ニ三九
── 人はあまり若いと
正しい判断ができない。
あまり年をとっても同じである。

偉大なる人、不世出の頭脳、パスカル。
彼は四十歳になるまでに死んだ。
若くもなく
老人でもなく。
ただし、
自分の書いたものに
義理立てしたわけではない。

念のため。


『天野忠詩集』思潮社 現代詩人文庫 85 (1986年)




『あ・ぷろぽ』にも、著者本人を始め、愛すべきおかしな老人たちがいろいろと出てくる。
どこか現在とズレている。特に(「オートなんとか」とか「自動なんとか」といった)機械の変化になかなか対応できない。

頑固でもなく、新しい機械の前でオロオロすることもない。苦もなく「現在」に順応してしまう、若い人たちと同じような老人ばかりになってしまったら、世の中なんて味気なく干からびてしまうことだろう。(若々しく瑞々しい老人なんて気味が悪いばかりだ!)
しかしそういう時代ももう遠くはない。

ところで、そもそもわたしはいつどこで『八十二歳のガールフレンド』を、山田稔を知ったのだったか?「つい先日」のことなのにもう忘れている・・・









4 件のコメント:

  1. アトリ姐ちゃん2018年5月11日 16:23

    こういうおじいさんはいいですね。
    私にはおじいさんという存在がいなかったので、おじいさんに憧れています。
    「夜中」のユーモア感覚、ドイツ人のユーモアの発想に似てます^^
    おじいさんの世代が変わってきてますよね。
    昔長髪でロックにハマってた世代がおじいさんになってて、日本ではどうなのか知りませんが、
    こちらではよく長髪を束ねたおじいさんを見かけますよ(笑)

    Takeoさんが紹介される文章って好きですよ。
    ご自分でも味のある文章を書かれるし、エスプリとユーモアもあって、聡明だし、
    アップされてる絵や写真や音楽のセンスも抜群にいいですし、
    何でいつも自分を卑下されるようなことばかり書かれるのですか。
    前記事で自分を表現する漢字に自分を褒めてあげる言葉がもっとあってもいいと思いますけど(笑)

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    1. こんばんは、アトリ姐ちゃん。

      いや、天野さんの詩、おもしろいです。
      おもしろいといえば一般には(日本では)山之口獏なんでしょうが、獏さんとはまた違った・・・そうですね、洋風の?(笑)ジョークの感覚があるように思います。
      獏さんは沖縄出身、天野さんは京都の人です。

      日本では昔ベトナム戦争反対なんて言ってた世代が、今60代後半から70代前後なのかな?
      内田裕也みたいな感じの人は一般人ではいないですね。みんなこじんまりとまとまっちゃって。といっても、はみ出しようもないのでしょうけれど。

      卑下しているつもりは本人にはないんです(苦笑)見る人がそう思うだろうということは容易に想像がつきますが。
      ただ、昔から自分に自信が持てなくて。褒められたという経験もほとんど皆無ですし。

      あのような自己イメージを持っていることも確かですが、
      こういう風に褒めてもらえると、素直にうれしく感じます^^
      やはり書く以上は自分の納得のいくものを書きたいと思っています。

      自分の好きな絵、好きな写真、音楽、詩・・・能力の範囲でいいものを、とは、いつも思っています。だって仕事じゃないんだから、手抜きをするくらいなら書かなければいいと思うので(笑)

      天野さんの詩はまた紹介します。(気に入っているので)

      やさしいメッセージをありがとうございます^^

      よい一日を。

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  2. 私は“おかしな老人”に当てはまるのだろうか?

    気になりますね。

    オムロンのヘルスメーターは、56歳だよと云ってるからちょっと心配です。

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    1. おかしなっていうのはここでは「愛すべき」という枕詞が付きます。
      わたしは54歳ですが、オムロンによると76歳だと言われるでしょう。きっと。
      実際あたまもからだもyy8さんの方が若者ですよ^^


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