2019年8月18日

もってけ泥棒!


8月16日付け「東京新聞」夕刊のコラム「大波小波」に興味深い記事が載っていた。
「大波小波」は主に「本」に関するコラム欄で、わたしはここで『がきデカ』で知られる漫画家山上たつひこの1970年前後の名作『光る風』を知った。『八本脚の蝶』もここに紹介されていたのではなかったろうか。

以下、昨日のコラム『万国の万引きたちよ』を引用する。


英国在住のライター、ブレイディみかこの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)は、著者の息子を描く。題は日本出身の著者とアイルランド人の夫との間に生まれた息子が、ノートに落書きした言葉から。
 中学生の息子は、人種差別や貧困を目の当たりにしながらたくましく育つ。通うのは貧しい白人の労働者階級の子が多い学校。かつては底辺校だったが、ダンスや音楽など生徒が好きなことに力を入れて評価が変わった。レコーディング・スタジオまで備える。
 クリスマスコンサートで、ちょっとこわもての上級生が、自分たちの貧乏暮らしを笑い飛ばすラップを歌う。リリックの最後は、「万国の万引きたちよ団結せよ」。そう、英国のバンド、ザ・スミスのヒット曲のタイトルだ。見守る教師たちの表情は誇らしげだったという。実はこの曲、発売当時の英国で議論を呼んだ。万引きを奨励するのかと。
 東京渋谷にある三つの書店がタッグを組んで、7月末から万引防止に顔認証システムを導入した。万引きを疑われる人物の画像を共有し、来店したら店員に注意を促すシステムである。
 万国の万引きたちよ、渋谷には近づくな。わたしたちは監視され、記録されている。
        
コラムの著者のペンネームは「モリッシー」。ザ・スミスのリード・ヴォーカリストであり、その独特の歌詞で、世界中の若者の人気を集める、バンドのカリスマ的存在である。

モリッシーと聞いてすぐに思い出すのが、フェイスブック以前のSNSの友達だったアメリカの女性、アン(Anne)だ。彼女とはまだ彼女がティーンだった頃からの友達で、今でもアンが水彩で描いたエリザベス・テイラーのポートレイトがわたしの部屋の壁に飾られている。
あれからもう10年以上経つのか。アンが特別に愛していたのがモリッシー(ザ・スミス)とアンディー・ウォーホールだった。ウォーホール風の白髪(銀髪?)のウィグがとても似合っていた。

真の教養人であれば、また本当に本を愛する者であるなら、万引きに全く縁のない人間であっても、渋谷のそれらの書店には近づかないはずだ。

「読書」とは本質的に反社会的な要素を備えている。だからこそ、ブラッドベリは本を読むことが禁止され罪とされるディストピア小説『華氏451』を書き、『1984』でオーウェルは
'War Is Peace, Freedom Is Slavery, Ignorance Is Strength'
「戦争は平和。服従こそ自由。無知こそ力」というスローガンを示したのではなかったか。

日本の大学が競うように文学部を廃止してゆくのも、詰まるところ、あまりいろんなことを知ってほしくない、そして考えてほしくないからに他ならない。
「無知は力」「従順こそ自由」であるならば、目の前の現実に、その在り方に疑いを差し挟むなど反社会的行為そのものだ。

貧困を、差別を、自分の背負っている重荷を、社会のせいにするな。
いじめを学校や教師の無能無策のせいにするな。
都市の破壊を政治や大企業の強欲のせいにするな。

とかく深く本を読んだり物事を本質的重層的に考える者たちは、「社会」や「教育」の在り方に「おかしいんじゃないか」と言いたがる。「現象から本質へ」と遡及したがる傾向を持つ。

レイ・ブラッドベリやオルダス・ハクスリー、ジョージ・オーウェルは教えてくれる。「本を読み、考えるような人間は、盗みを働く人間よりも罪が重い」と。
何故ならそれは「いま、そこにある社会そのものに対する不敬罪」に他ならないからだ。

本を読む者たちは考え、また感じるだろう。顔認証システムを導入し、入店者を一人ひとり識別し、犯罪履歴と照合し、「疑わしきは注視せよ」という前提の下に運営される店の姿勢こそ、根本的な危険思想ではないのか、と。

思い出すのは、クロード・シャブロルの『いとこ同士』だ。
田舎から大学受験のためにパリのいとこのところにやってきた若者が、散歩の途中立ち寄った本屋でバルザックを立ち読みしている。店主が言う「バルザックは好きか?」「え、ええ。」「ふふん、田舎者だな、田舎の人間はバルザックを好む・・・万引きしろ!」「え?」「どうせ金が無いんだろ? ほら、後ろを向いているから、その間に本を持って行け!」

彼は結局「万引き」をしなかったが、このような書店主がいるんだなぁと感心したものだ。「金が無くてもそんなに好きなら、もってけ泥棒!」これが「好き」の心意気じゃないか。

『いとこ同士』は、必ずしもわたしの中では上位に入る作品ではないが、ラストと、このシーンだけは強く印象に残っている。一本の映画、一冊の本の中で、一箇所でも、心に刻まれるシーン、言葉があれば十分だ。

『モリッシー詩集』を早速図書館にリクエストした。

「本を愛せない書店主たちよ。書店から撤退せよ」





 




         

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