谷底へ
プリーモ・レーヴィ
荷車の列があえぎながら谷底へ降りてゆく、
枯れ枝を焼く煙が、青く、苦くよどんでいる、
生き残りのミツバチがイヌサフランの蜜をむなしく探っている。
崖の土が水を含んでゆっくりと崩れ落ちる。
まるで天に召されるかのように、霧がすばやくカラマツの間を駆け上がる。
生身の肉体の私は、重い足で、むなしくもそれに追いすがろうとするが
それはすぐに雨になって落ちてくるだろう。季節は終わり、
私たちの世界の半分は冬の方に航路を向けている。
そしてすぐに私たちのすべての季節は終わってしまうだろう。
この良き手足はいつまで私の命令に従うだろうか?
もう生きるにも愛するにも遅すぎる
天空に分け入り、世界を理解するにも。
今は降りていく時だ
表情の消えた無言の顔を掲げて、谷底へ、
私たちの思いやりの陰に身を寄せるために。
(1979年9月5日)
『プリーモ・レーヴィ全詩集ー予期せぬ時に』竹山博英訳 (2019年)
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