2019年8月26日

降りてゆく…

           

谷底へ 


                          プリーモ・レーヴィ


荷車の列があえぎながら谷底へ降りてゆく、

枯れ枝を焼く煙が、青く、苦くよどんでいる、

生き残りのミツバチがイヌサフランの蜜をむなしく探っている。

崖の土が水を含んでゆっくりと崩れ落ちる。

まるで天に召されるかのように、霧がすばやくカラマツの間を駆け上がる。

生身の肉体の私は、重い足で、むなしくもそれに追いすがろうとするが

それはすぐに雨になって落ちてくるだろう。季節は終わり、

私たちの世界の半分は冬の方に航路を向けている。

そしてすぐに私たちのすべての季節は終わってしまうだろう。

この良き手足はいつまで私の命令に従うだろうか?

もう生きるにも愛するにも遅すぎる

天空に分け入り、世界を理解するにも。

今は降りていく時だ

表情の消えた無言の顔を掲げて、谷底へ、

私たちの思いやりの陰に身を寄せるために。

(1979年9月5日)


『プリーモ・レーヴィ全詩集ー予期せぬ時に』竹山博英訳 (2019年)





















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