雨
探偵は雨にぬれていた
秋の悲嘆の中にいた
雨は舗道をぬらし、
舗道の上の落ち葉をぬらし
落ち葉の上の乾いた心をぬらした
ぬれた心で
彼は待っていた
夜が朝をつれて
運命のほころびをつくろいにくるのを
ただ待っていた待ちながら
ひとりで雨にぬれていた
深く考えなければ
いまはそれほど悪い時代ではない
深く考えなければ
人生もまんざら捨てたものではない
マロニエは風に吹かれて
川面にはさざなみが立つ
街の灯は窓に明るく
こどもたちはすこやかだ
深く考えなければ
人々は愛し合っていて
この世は生きるにあたいする
「男の首」は昔の話で
「黄色い犬」はすでに去った
深く考えさえしなければ
探偵は雨の中にいた
雨の悲嘆にぬれていた
ー郷原 宏 詩集 『新・日本現代詩文庫 109』(2013年)収中「詩集『探偵』全編(1976-1979)」より
※「男の首」「黄色い犬」共にジョルジュ・シムノンの小説のタイトル
◇
フェイスブックを眺めていたら、以前ちょっと知っていた同世代の男性の新年の投稿を見つけた。昨年大晦日の投稿だ。
「去年大晦日の投稿。〇〇に移ったけど、心境に変わりはない。当たり前、を貫くことの大切さ。
皆さん良いお年をお迎えください。」
と書いて、その下に、前の年の大晦日の投稿が再掲されている。
そこにはこう書かれている
「年末に。
山のあなたの空遠く 幸い住むと人の言う
と、カール ブッセはうたったけれど
本当の幸せは、遠くにでもなく、高揚のなかにでもなく、穏やかな日常の中に立ち現れるように思う。
ごく当たり前の日常を大切にしたい。
新年への祈り。」
2018年12月31日
穏やかで、当たり前の日常・・・苦笑。
そう。深く考えさえしなければ、今だって、「穏やか」とか「当たり前の日常」なんて言葉が使えるのかもしれない。
ところが生憎わたしは「深く考えない奴」ってのが大嫌いでね・・・
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