先日、最近足が遠のいているあるサイトに、このような書き込みがあった。
「正月明け早々2時間残業なんてあり得ん!(笑)」
また
「12月の残業が200時間を超えた・・・」云々
どちらも怒っているわけでも、また絶望しきっているわけでもない。
「そんなもんだ」「仕方がない」という溜息まじりの呟きに聞こえる。
フランスではこういう生活を自分たちに直接・間接に強いる政治に対し、市民たちはゼネストで対抗した。
日本人は何やら「前向き」「ポジティブ」という言葉や(Behavior)ビヘイビアがお好きなようだが、これを見る限りに於いては、とても「前向き」や「(生きることに)ポジティブ」どころか、極めて受動的な民族ではないかと訝る。
ニーチェは仕事ばかりにかまけている人間を「怠惰」であると断じた。「自分自身と向き合うことをしない(そのような時間を持とうとしない)者」を「怠惰な人間」と呼んだのだ。
またカミュは、「人々は幸せになることに忙しく自分自身になる暇がないのだ」と、若き日のノートに綴っている。
この場合「幸福になること」が、「人間としての幸福」ではなく、「働いて金をもうけること」と同じ意味であることは言うまでもない。
フランス市民(何故かフランスは、首都パリに住む人に限らず「市民」と呼んでしまう。そして日本はどうしても「日本国民」だ。どうしたって「日本市民」と呼ぶには無理がある)は、しかし、「自分や家族の幸せ」のために、交通機関がマヒし、パリの街にゴミが溢れることも厭わない。つまり「働くこと」を拒否=「ストライキ」する。自分も拒否するし、ゴミ収集車が(同じ理由で)やってこないことも認める。これこそが、言葉の真っ当な意味での「ポジティブ」であり「生きることに前向きな姿勢」ではないか。
「ああ、今夜もまた残業か・・・」とぼやきながらも家を出て会社に向かうことを「前向き」とは言うまい。
◇
以前にも書いたが、週末になるとやってくる、この団地の住人の家族の車が出す、ドアを閉める際の「ピピッ」という音が神経を逆撫でする。「この車」に限ったことではないのだろう。今ではどのような車種であっても、こんな感じなのだろう。
ドアを「バタン!」と閉めるよりは「上品」とか「進んでる」と思っているのだろうか?
建物のドアと違い、車のドアはどうしても、静かに、音を立てずに閉めるということは難しいのだろうが、わたしからみれば「ピピッ」という電子音の方が無粋で、野蛮野暮である。利用者にいわせれば、「今はみんなそうなんだから仕方ないじゃない」
「前向き」な人たちは、「そういうものなのだから」前向きに順応する。不平を言ったり、文句を言うことは不毛なことだし、第一「昔の方が良かった」なんてあるわけないじゃないか。「僕たちは立ち止まってはいられないんだ、立ち止まること、それは遅滞であり、停滞であり、渋滞だ。立ち止まらずに進むしかないんだ」
◇
本日(十一日)、山手線日暮里駅で、目の不自由な人が、ホームから落ち、電車にひかれて死亡したという事故があった。新聞には大きな文字で「急がれるホームドアの設置」と書かれている。しかし、「昔は」少なくとも都内であれば、また余程の早朝や深夜でもなければ、ホームの端から端まで充分に目が行き届くだけの駅員がいた。そしてもうひとつ、今は、ホームに「人間」がいるのかいないのか・・・みなスマートフォンに魂を抜き取られ、手助けが必要な人がいても気づかない。見えていない。本当の「盲人」はどっちだ。
いったい「人間」は何処へ行ったのだ?
◇
最後にふたつの言葉を紹介する。
ひとつは、先日、「わたしの部屋に飾るポートレイト57人」の中に選んだ、アメリカの女流フォトグラファー、ドロシア・ラングの
“A camera is a tool for learning how to see without a camera.”
「カメラは、どのようにカメラなしで世界を見るかを学ぶための道具です」
わたしは彼女の"How To See The World Without Camera"という言葉を、世のスマホバカたちに送りたい。カメラを通してしか世界を見ることができない者たち。言い換えれば、SNSという「集団の眼」と共に世界を、世の現象を見ている者たち・・・君たちはめくらだ。
もう一つは、『純粋な幸福』の中で辺見庸が引用しているエミール・シオランの言葉
── 私は次のように明言しよう。すなわち、人間の抱く一切の企図が、遅かれ早かれ人間自身に刃を向けることになる以上は、理想的な社会形態を追求しても無駄なことだ、と。人間の行為はたとえ高邁なものであろうとも、結局は人間を粉砕すべく、人間の前に立ちふさがるのである。
『歴史とユートピア』出口裕弘 訳 (1967年)
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「社会は現在、その出発点より後退してしまったように見える」
ーカール・マルクス『ルイ・ボナパルドのブリュメール十八日』
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