以前『男はつらいよ』に関する本を読んでいたら、寅さんは旅先から柴又の実家に電話をかける時に、必ず100円玉を何枚も用意している。そしてその本に書かれていたのは、寅次郎がたばこ屋だか雑貨屋だかの店先であわただしく小銭を入れ乍ら電話をしている後ろに、「テレホンカードあります」という看板がぶら下がっているという指摘だった。
寅さんはテレホンカードという「便利な」ものの存在をおそらくは知らなかったのだろう、けれども、それを知ったとしても、彼は相変わらず小銭を積み上げて柴又に電話をかけ続けただろう。
これは寅次郎の「美意識」とか「こだわり」などという大仰なものではなく、単に、これまでそうしてきたことだからこれからもこれでいくよ、という彼の自然体に過ぎない。
そして「おれはこのままでいいよ」が、通用しないのが今の世の中だ。
それはつまり、自分の、個々人の自然体が許されない時代と言っていい。
寅次郎の後ろを、バカどもが、「おい今度はキャッシュレスだぞ!」と駆け出してゆく。
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